鞆の浦「さくらホーム」施設長・羽田 冨美江氏が 株式会社土屋の顧問に就任  ~地域で「見守る」これからの介護~

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株式会社土屋(本社:岡山県井原市、代表取締役:高浜 敏之、在籍人数:1,106人)・ホームケア土屋は、重度障害の方に対する訪問介護サービスを全国で展開するソーシャルビジネス企業です。

アテンダント(介護者)がクライアント(利用者)のお宅で一対一の生活支援や医療的ケアを行い、障害を持つ方が住み慣れた地域や自宅で自分らしく暮らすためのサポートをしています。

今回は、地域包括ケアシステムの先駆者として知られる羽田 冨美江氏が、新たに株式会社土屋の顧問に就任したのを受け、地域で見守るこれからの介護の在り方をについて、お話を伺います。

【はじめに】

広島県福山市の港町・鞆の浦で、地域密着型の老人介護施設を運営している羽田 冨美江氏。羽田氏は、「地域包括ケアシステムの前に町づくり、そして人と人とをつなげるという長い道のりがある」としています。

その長い道のりの末に、今は地域住民の生活範囲400m圏内で、デイサービスやグループホーム、小規模多機能施設、放課後等デイサービスを作り、地域と密着し、町の人の暮らしを支える町づくりを行っています。

以下、羽田 冨美江氏のインタビューをお届けします。

【羽田 冨美江氏 インタビュー】

■地域で生きる~大切なのは町づくり~

以前、私は理学療法士として20年くらい働いていたので、当時は利用者さんのADLの改善や維持が大前提で、病院では専門のケア、自宅ではヘルパーさんのケアで生活ができればと単純に考えていました。それが鞆の浦で生まれ育った舅の介護をして初めて「地域の中で生きる」ことの大切さに気付きました。

舅を見ていて身に染みて感じたのは、人が地域に受け入れられている感覚が、生きる力につながることです。そこから、要介護になった人たちを、もう一度地域の人とつなぎたいと思ったんです。

人は人間関係の中で幸せを感じます。その人が生きてきて、それまでの人間関係を失わないケア、また希薄になった人間関係を、もう一度取り戻すケアが必要だと。

それで、地域の中に老人介護施設「さくらホーム」を作りました。けれど、ホーム内だけのケアは、利用者さんにとって自由がないし、生活感もない。ただ介護されるだけになってしまう。かといって、外出すると奇異な目が向けられます。

町の人はそうそう簡単に受け入れてくれません。でも、それではだめだと。そのために町づくりから始めようと思いました。

■町づくり、その一 ~理解の促進~

まずは、町の人といろんな話し合いを持ちました。地域は人とのつながりで成り立っているので、人の気持ちが変われば地域も変わります。

当初は認知症や脳卒中、パーキンソン病などの勉強会をして、地域の人に障害や家族の想い、介護する人とされる人の意識の違いを理解してもらおうとしましたが、後でそれがあまり意味のないことが分かりました。表面的には理解されても、病気や障害が自分や家族の身に起こることとして捉えられないんです。

そこで、地域で暮らしている認知症の方などを招いて、一つ一つ身近な事例を検討しました。今でいう地域ケア会議ですね。その人の状態や、声掛けの方法などを説明しながら、徐々に理解を深めていったんです。そうすると、地元の知り合いのことなので、みんなが上手にその人を支えて、気にかけてくれるようになりました。

鞆の浦は高齢化率50%ですから、みんな自分もいずれボケて人の世話になるんだろうという、自分のこととして捉える感覚が出てきました。そういうふうに徐々に町の人の意識が変わっていき、10年、20年続けることで、なんとなく地域の人みんなで気に掛け合うという形ができてきました。

■町づくり、その二 ~地域の連携~

もう一つは、地域との連携です。「さくらホーム」は、街の真ん中にあります。もともとは江戸時代の商家で、300年以上の歴史を持つ古民家として、町と結びついた関係にあります。

「さくらホーム」は、利用者さんの徒歩圏内に、憩いの場や相談場所があればという想いで作りました。というのも、徒歩圏内であれば、地域とのつながりも作りやすい。けれど、いざ作ってみると、近すぎて周りの目が気になり、嫌がる利用者さんも結構多くて。もっと離れた施設に行きたいというのが分かりました。

ただ、町中なので近所の民生委員さんとのつながりがしっかりできる。それが何よりの利点でした。例えば、あそこから奇声が聞こえるけどちょっと見てくれとか、地域に何かあると民生委員さんがすぐ相談に来てくれる。台風が来る前などは、民生委員さんのお声がけで、うちのスタッフが土嚢を積んだり、窓を閉めたりなどの手伝いができるし、避難所としてホームに泊まってもらうこともできます。また、うちのスタッフが消防団に4人くらい入っていて、消防団も手伝いに来てくれます。

地域の人も、自分で助けに行くことは実はあまりないんですが、気づいたことがあれば、さくらホームに連絡してくれますので、私たちがすぐに見に行けます。ここが重要で、動いてすぐに報告したら力を貸してくれるようになりました。

こうした積み重ねが、地域のつながりを強くしていきます。

■地域包括ケアシステム ~形より中身を~

地域包括ケアシステムと言われ出して久しいですが、形ばかりが先行している気がします。このシステムは、医療や専門職との連携だけではありません。町の人との連携が重要ですが、そんなに簡単ではありません。時間をかけてコツコツやっていくと、なんとなく地域の人が気にかけてくれるようになって、地域のつながりができてきます。そこでやっと、地域包括ケアシステムというものになっていくのだと思います。

最近は地域ケア会議でも、ご近所の人がほとんど参加していないことがよくあります。これでは結局、機能しません。例えば、独居の認知症の方の場合、外に出て行ってしまって、ヘルパーさんやデイサービスの人が来てもいないことがあります。そんな場合、近所の助けが必要です。「今日はデイサービスの日だからここにいようね」など、ご近所の人が、その人をどういうふうに支えるかを考えることこそが重要で、ご近所の人が参加しない地域ケア会議は意味がないんです。

形を作るのではなく、地域を変えることが必要です。地域の人とちゃんと連携を取っていれば、あの人あそこにいるよ、とか大体のことがわかりますし、地域の人が見てくれる。町全体で見守ることができます。町づくりをしないとケアはできません。地域包括ケアシステムというのは町づくりそのものです。

■地域は関係性 ~失敗の繰り返しから見えたもの~

地域というのは、関係性です。その町のやり方があるし、それに沿わないと、上手くいくものもいかなくなる。私は失敗ばっかりしてきましたが、でもその中で分かってきたこともたくさんあります。

例えば、民生委員さんとのつながり方。地域との連携はまだ不十分だというのが現状です。それは民生委員さんを知らないから。地域連携への近道は民生委員さんとどうつながるかだと思います。

ただ民生委員さんもいろんな性格の人がいます。プライドの高い人もいれば、いろんな話を聞いてあげて丁寧に関わってくれる人もいる。そうした性格の違いを把握しておかないと地域包括ケアは上手くいきません。だから公民館には足しげく通うようになりました。公民館は民生委員さんや町内会長さん、お世話好きな人といったように、町のこと、関係性を熟知してますからね。お茶を飲みながら世間話をして、なんとなく表情とかで関係性をつかむようにしています。

あと、地域への入り方ですね。私は最初、上から目線で、これからの人口減少、介護人材の不足を説いて、みんなで支え合いましょうとか、きれいごとを言ってたんですよね。でも、それは間違いでした。正解は「助けて」って頼みまくることだったんです。助けがなくてもできることでも、近所の人に頼みに行く、そしたら助けてもらえるようになった。そこに上手くいくコツがありました。

そして地域に適したことですね。例えば鞆の浦は地縁を大事にするので、お知り合いの人とのつながりを軸にしますが、もう一つ運営している兵庫県相生市の方は地縁をあまり好まないので、カラオケなどの趣味や宗教関係の知り合いの人とつなごうとか。

やっぱりその町に合ったことを見つけていかないと。ここは地縁がないから地縁を作ろうかとか、探り探りです。やってみて失敗したらやめて、また違う方法でやってみようかと。それによって、また地域の人も変わっていくかもしれない。

重要なのは諦めないことです。苦情を言われたり、失敗したら相手の責任にして、あそこの町は誰も力を貸してくれないと、早い段階で止めてしまう人が多いです。でも、そこで諦めたら、町づくりはできません。

■これからの課題 ~対等になること~

今では町中に認知症の方がいることは当たり前になってきていますが、昔は家族が隠していました。そういう人を表に出すことは勇気のいることでした。けれど、だんだん人前に出してもいいんだ、恥ずかしいことではないんだということが分かってきて、家族も苦労してるんだって言えるようになってきた。

地域の人は、最初はよく分からないから冷たいんですけど、分かってくれば変わるんです。理解が進むと、今度は逆にお世話ばっかりしだすんですよね。優しくなりすぎるんです。でもそれは違うんです。私たちは対等なんだということを分かってほしいです。みなさんにそう話しているんです。

対等ではないんです。まだ今もそうです。でもいつかなる。だから、それを待っています。

■株式会社土屋の顧問として

土屋の顧問に就任することになったのは、二つの理由があります。

一つは、勉強のため。私は今までの経験上、認知症や脳卒中、パーキンソン病、脳性まひといった方とは対等でいれます。ですが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や進行性の難病といった方のことをまだフラットに見れなくて、もっと同じ目線に立てる自分になりたいんです。心のどこかで、かわいそうというか、そんな感覚がまだあるんです。これは、いろんな人と関わって、意見を聴くことで、すぐに消えていくとは思っていますが、そうした自分の見方を変えるためというのがあります。

二つ目は、介護スタッフにもっと地域のことに目を向けてもらうために、私の経験をお伝えしたり、活かすことができたらと。

嬉しいことに、「さくらホーム」から、私の想いを汲んで、他の地域で施設を立ち上げる人が4人います。今後、人口減少や高齢化が進み、ますます地域包括ケアシステムが必要になります。土屋でも高齢者のデイサービスや知的障害者の地域生活が始まりましたし、一つ一つ形は違うけれど、この動きが広まっていけばと。

相互に学び合うことで、自分を成長させて、もっと社会にノーマライゼーションを浸透させていきたいです。

■おわりに

私の中では以前から、「人はサービスだけでは幸せになれない」という想いがあります。ただ介護を受ける人になってしまうと、人間関係も断ち切られてしまい、尊厳をもって生活することができなくなります。それではいけないと、こつこつと町づくりをしてきました。

だから、このことを伝えていきたい。実際、介護者はサービスだけで手一杯だと思うんですね、でもやっぱりそうじゃない。サービスだけを一生懸命するんじゃなくて、地域を意識してもらって、みなで支え合える世の中になればなと。私の目指すところはそこですね。

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